2019年3月22日金曜日

おセンチ野郎のお通りだ

 まあそりゃあ科学的にいえば偶然ということになるなんだろうが、やはり時代の変わり目というのはあると思う。そしてそれはまさにいまこの時なんだと思う。元号が変わりピエール瀧が逮捕され来年には東京でオリンピックが開催され横浜スタジアムは改修されて客席の数が増えイチローは引退した。
 繰り返すがこれらが同じようなタイミングで訪れたというのは単なる偶然が積み重なっただけで、そこに、時代の変わり目、なんてことを感じてしまうのは人間のセンチメンタルがそうさせるだけであって、本来そこには何の意味もない。でも、それでもやっぱりこれは時代の変わり目だと思ってしまうのであり、というか思いたい、と、いま私は思っている。だってイチローが引退したんだぜ。
 あのイチローだよ。イチローがプロ野球選手であることをやめちゃったんだぜ。これを時代の変わり目と思わずしてどうするんだよ。イチローが引退するのに、それを単なる一プロ野球選手がいなくなっただけだなんて思って恬然としているなんてできないじゃん。イチローだよ。イチローが辞めたんだよ。イチローがプロ野球の世界からいなくなっちゃったんだよ。もうイチローのプレーが観られないんだよ。イチローだよ。イチローが引退しちゃったんだよ。一つの時代が終わったんだよ。ただの出来事じゃねぇんだよ。イチローが引退しちゃったんだ。

 閑話休題

 プロ野球を真剣に観初めてかれこれもうじき四十年になるから、それなりに記憶に残る瞬間をたくさん記憶しているけれども、いまだにその瞬間を映像としてはっきり記憶している数少ない場面の一つにイチローの打撃練習がある。
 九八年の九月、東京ドームでのファイターズ対ブルーウェーブ戦。イチローが所属していたブルーウェーブはビジターチームだから、早く球場に入ればその打撃練習が観られる、そう思って開場早々にスタンドに着席した。すると果たせるかな、程なくイチローの打撃練習が始まった。
 初めは、稀代の安打製造機たる印象そのままに、フィールドの全方向に、測ったようなライナー性の打球を次々に放つ。さすがはイチローと感心しながら観ていたのだが、圧巻だったのはその後。
 練習の締めくくりという意味合いなのだろう、少しばかり力を入れたスイングをすると、打球はかあん、という乾いた打球音と共に、綺麗な放物線を描いてライトスタンドの一角に吸い込まれていく。それから立て続けに五、六球、全く同じスイングから全く同じ打球音が聞こえ、全く同じ放物線を描いてライトスタンドの全く同じ一角に打球が吸い込まれていく。
 観ていて恐ろしくなった。有り得ないはずの光景をいま目の当たりにしていると思った。いくらプロの頂点にある選手とはいえ、あんなに正確な打球を放てるものかと観ていて震えがきた。これは人間業ではないと思ってまじ怖かった。あの以前もあれ以後も数限りない選手の打撃練習を観たが、あれほど正確無比な打撃を観た記憶はない。
 イチローがメジャーに行って数年が経った頃のこと。何処かのインタビューで「だってバットの芯でボールの下半分を叩けば勝手に飛んでいくでしょう」と事も無げに答えていてまた怖くなった。人間ってどこまでの高みに到達できるんだ。みたいな根源的な疑問が浮かんできて怖くなった。

 閑話休題

 上に挙げたゲームを観に行こうと思った直接の動機は、当時まだ落合博満がファイターズに現役選手として所属していたから、それを観に行こうと思ったんだよな。まだ正式に発表されてはいなかったけれども、落合がそのシーズンを最後に辞めることはみんな解っていたから、スタンドからお別れを云うつもりで観に行った。矢尽き、刀折れた満身創痍の落合と、今を盛りのイチローを並べて見ながら、嘗て落合が座っていたプロ野球最高のバッター、その玉座に現在座っているイチロー、そのコントラストに得も云われぬ感慨を覚えたのを記憶している。あの時も時代が変わるってこういうことなんだろうな、と思ったものだったっけね。あれからもう二十一年、月並みだけど、早いな。すべては一瞬のことだ。

 閑話休題

 ではそんなことでお後がよろしいようで。イチローがマリナーズに移籍して一年目に首位打者最多安打盗塁王新人王を取った時には大騒ぎになったものだけれど、正直なところ、なんだよお前らイチローがブルーウェーブにいた頃、最後の何年間かなんてほとんど騒いでなかったじゃんか、球場はいつもガラガラだったじゃないか、評価する言葉すら聞かれなかったじゃんか、当たり前みたいにしてただけじゃんか、と思って腹立たしさを覚えたものだったっけね。あと、パンチョ伊東がイチローがマリナーズに移籍した次の年に亡くなった時、ああパンチョ、イチローがメジャーで大活躍をしたのを最期に見られて良かったな、と思ったなあ。NHK-BSの開局とともにメジャー中継が始まるそれ以前、我々日本のファンはみんなパンチョを介してメジャーを知ったものだったからね。

ありがとうございました。これからもよろしく。

 とりあえずこのWeb日記と云い張っていたブログは今日でおしまいにします。  閑話休題  昨年の五月、置かれた状況・環境に翻弄されてすっかり減退してしまった創作意欲に再び火をつけて、みやかけおを再起動するのを目的に、ブレインストーム的にブログを始めたのですが、あれから一年...