2019年5月27日月曜日

私は告白する。

 あれは自分が二十歳の頃だったと記憶するけれども、朝の通勤ラッシュで身動きの取れぬ千代田線の車内で、自分の股間が誰かにぎゅうと握りしめられるという結構な事態に遭遇したことがあった。
 股間を握りしめられている時には、そのようなことが起こっているとはすぐに感知ができず、うわー、股間がなんか痛い。ぐらいにしか思わなかったのだけれど、霞が関の駅で吐き出されるようにして電車から降りたら、見るからに変態の小男の爺いが好色な目でこちらをみていたから、あの生き物が自分の股間を握りしめていたのだと気付いて途端に怖くなった。翌日から電車に乗る時刻と車両をちょっとずつ変えるなどの対策を講じたりして、次回が訪れないようにと気をつけた。
 そんな目に遭ったことは流石に人には云えず、だからそこから二、三週間の間は心のうちでひとり煩悶するばかりで、だからどこか心ここに在らずの夢遊な感じで生活をしていた。
 無論、そんな自分の経験と軽々しく一緒にすることは出来ないが、今般、女性の皆さんが安全ピンの話題と共に痴漢被害を訴える気持ち・恐怖というのはわかるような気がする。見知らぬ誰か(しかもそれは多くの女性にとって自分よりも明らかに屈強に見える生き物だ)の排泄を無理矢理に請け負わされたような陰々滅々たる気分はちょっと他に例えようがない。

 閑話休題

 すっかり毎朝の愉しみとなった『おしん』もいよいよおしんが東京に出てくる展開となった。座敷女中という名の飯炊き女郎にされるのを忌避するべく、生まれ故郷の山形を捨ててやって来たおしんが行き着いた先は、女工哀史そのままにして肺病で死んだおしんの姉が奉公をする約束になっていた髪結いの店。
 で、そこの女主人を演じているのがかつての名女優・渡辺美佐子なのだが、いやあ、氏が使うその歯切れの良い東京言葉に朝からすっかり聴き入ってしまった。
 そうして聴き入りながら、あゝ、現在、もうこうした東京言葉を完全に使いこなせる女優・俳優はいないと云っても過言ではないよなあと思った。男優の方はまだ歌舞伎役者や落語家など伝統芸能の担い手がいるからなんとかなるけれども、女優となったらほぼ皆無。だいぶん標準語に寄ってはいるけれども天海祐希がいるくらい。
 いまから約三十年前に『極道の妻たち』で岩下志麻が珍妙な関西言葉を使ってから以降、方言が使われるドラマや映画では決まってその方言の出来不出来が話題になるけれども、これが東京言葉となるといったいに話題となることがない。東京言葉を使えない当節の女優がこれをやると東京言葉を字面の通りに発音するから(語尾を〜じゃねぇよ、みたいにするだけ、みたいな)、単に乱暴粗雑な言葉遣いになってしまう。
 いまや東京言葉は完全にドラマや映画から消失していて、他の地域の方言に比べたらその悲惨なことは遙かに甚大なのだが誰も話題にしない。落語や講談や浪曲や歌舞伎があるからなんだろうかね。

 閑話休題

 『ザ・ガーベージ・コレクション文芸部恒例(嘘)映画紹介コーナー』今回は僕が大好き、名匠・ビリー・ワイルダー特集。

 てなわけで、ワイルダーの映画と云われていまパッと頭に浮かんだものをいくつか。

お熱いのがお好き』(1959)
 話としたら至極くだらない、無理ばかりの話なんだけど、映画全体に品があるんだよなあ。大口ジョー・E・ブラウンとジャック・レモンがタンゴを踊る馬鹿馬鹿しい場面のまあ素晴らしいこと。

アパートの鍵貸します』(1960)
 割れたコンパクトで全てを説明してしまう物凄さ。この頃のシャーリー・マクレーンの溌剌たる可愛らしさと云ったらない。全てのセリフが気が利いてる。

情婦』(1957)
 文句なーし。チャールズ・ロートンからグレタ・ガルボからタイロン・パワーからエルザ・ランチェスターから、映画の発端から仕舞いまでもうみんなみんな素晴らしい。

サンセット大通り』(1950)
 キートンなんかのかつての大スターが集まってトランプをする場面がすごく怖い。グロリア・スワンソンの物凄いこと。夢に出てきそう。

あなただけ今晩は』(1963)
 この頃のジャック・レモンとシャーリー・マクレーンのコンビはもう鉄壁で、またサゲがなんとも落語っぽくて……それはまた、別の話。

昼下がりの情事』(1957)
 背伸びをして自分が悪い娘だと云い募るオードリー・ヘップバーンの純情可憐なこと。『魅惑のワルツ』のルーティーンギャグもいい。

地獄の英雄』(1952)
 カーク・ダグラスが生き埋めになっているというのにマスコミや野次馬の酷さと云ったら!

 閑話休題

 という六本をご紹介しましたよ。ビリー・ワイルダーの映画はとにかく好きで、数十に上る監督作品のほぼすべてを観ているのだけれども、どれもこれもよく出来ていてほんと、何度も繰り返し観たくなるような映画ばっかり。誰か一人映画監督を選べと云われたらやっぱりワイルダーになるよね僕の場合。

 閑話休題

 ではそんなことでお後がよろしいようで。映画の紹介をこういう形ですると、すごく自分が頭の悪い人みたいに思えてくるね。やっぱり「僕はこれが好きなんです!」って、映画の紹介じゃなくて、それを観ている自分、それが好きな自分の説明に堕しているから頭悪そうな感じになるんだろうね。そう考えると、やっぱり本物の評論家ってすごいよな。淀長さんとか。解説を聴いてるだけで、その映画を観てみたいと思わせるものね。

ありがとうございました。これからもよろしく。

 とりあえずこのWeb日記と云い張っていたブログは今日でおしまいにします。  閑話休題  昨年の五月、置かれた状況・環境に翻弄されてすっかり減退してしまった創作意欲に再び火をつけて、みやかけおを再起動するのを目的に、ブレインストーム的にブログを始めたのですが、あれから一年...